2022年09月19日

「あるべき姿」を失わないために


 作家の林望さんは、50才になってから「ソルフェージュ」を始めたそうです。ソルフェージュとは、楽譜を見てすらすらと歌えるようになる特訓のことです。

 林さんは子どものころから、バイオリンなどを習っていました。しかし、楽譜を見てただちにそれを音として歌うというのは、また別個の能力であり、教えを受けた林さんも、子供のうちから訓練しないかぎり、上達はおぼつかないと思っておられたそうです。

 ところが、熱心に学ぶうちに、最初のころは難しく見えていた楽譜が不思議に読め、歌えるようになったそうです。これにはご本人はもちろん、教えていた先生もびっくりされたそうです。

 「そこで思ったのだが」と林さんは書いておられます。「人間の能力というのは、努力によって必ず開発できる。何事もあきらめてはならない。日常に流されて、努力を怠れば、その分『あるべき姿』までも失ってしまう。人として生きて、それほど残念なこともあるまい」
  


Posted by 中川知博 at 08:00Comments(0)

2022年09月05日

気づきにくい恩


 私たちは、いつも身の回りにあって、存在にも気づきにくいものには、それがどれほど大事なものであっても、あたりまえ、当然なことと思って、恩を感じる心はなかなか生まれてこないようです。

 気づきにくい恩を意識して、何らかの形でお返ししようと、例えば、ボランティアなど、社会への恩返しとなって表れてきます。

 次に商会するのは、恩返しする相手はわからないけれども、受けた恩になんとか報いようとする人の話です。

 ――終戦の翌年、私は高等女学校の一年でした。食糧難と着る物も満足にない日に、外国から古着が送られてきました。1学級に5枚の割り当てがあり、その中の大人のコートをいただくことができ、自分で作り直し、大切に2年着て妹に譲りました。

 お礼を言いたいと思いましたが、私は社会への恩返しを誓いました。そして、編み物教室をやめてから、毛糸のえり巻きを千人の人にお返ししようと思い、5百枚を編み上げ、施設などに3百枚を贈りました。

 次はどなたにあげようかしら。私は健康に感謝し、目標の千枚の達成に向かって楽しく今日も編んでいます (毎日新聞読者投稿より)

 人から受けた好意は、いつまでも感謝する心を忘れず、してあげたいことはすぐに忘れたいものです。恩は売るものでなく、忘れないことが肝心です。
  


Posted by 中川知博 at 08:00Comments(0)